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【塾員クロスロード】
手塚良則:「鮨」を通して伝えたいこと

2018/11/14

  • 手塚 良則(てづか よしのり)

    松乃鮨4代目・平14商

商学部を卒業後、4年間プロのスキーガイドとしてスイス、イタリア、カナダ、ニュージーランドに駐在したのち、家業である鮨屋の道に入りました。現在は月に一度、海外に鮨を握りに出向いたり、国内外での鮨文化・魚文化を日本語・英語で行う講演活動、ハイエンドの海外ゲストを対象に、市場ツアーや体験握りなども行っております。

そんな中、慶應義塾大学の国際センター短期日本学講座「KJSP」で交換留学生と日本人学生に英語で「鮨」の授業も行っております。「鮨を通じて日本文化を伝える」をメインテーマに、参加した学生全員が必ず体験握りを行い、自分で握った鮨を食す、新しい形の授業です。

現在は、海外の旅行者の方々にも、ただ見るだけではなく、自分で行ってみる、体験してみるというツアーがとても人気です。この体験型ツアーは記憶にも残りやすく、学びの面でも大変良いと思われます。

さて、鮨の授業では何を伝えるのか。講義では、「小さな一貫の鮨には日本の文化が詰まっており、鮨のカウンターは日本文化の集約地」と紹介しています。そして「鮨」を通じて、3つの文化を伝えることを心掛けています。

1つ目は「魚文化」です。日本は何千年も前から魚を食べる文化を持つ稀有な国です。そのため漁師、市場の方々、鮨職人など、魚に携わる多くの方々がいます。また同じ魚でも、場所、季節によって味が異なり、捕り方(釣り、まき網、はえ縄、定置網など)によっても味が変わり、締め方でも異なります。その味の変化を楽しみながら、日本人は季節や名産地の味を楽しむのです。

2つ目は「コミュニケーション文化」です。値段がわからない鮨屋でのコミュニケーションもそうですし、「空気を読む」というのも市場ではよく行われています。これらは同じ文化的背景を持つ日本人ならではの文化だと思います。

3つ目は「鮨の食文化」です。鮒鮨や押し寿司など、地域による鮨の特性や歴史を紹介しています。他にも鮨にまつわる道具についての解説なども行っております。

日本の文化力は大変高い水準にあると思っています。そんな日本文化の中でも食文化、そして日本を代表する食の1つである鮨を知っていただき、日本食・日本の価値を上げていきたいと思っております。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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