三田評論ONLINE

【塾員クロスロード】
坂入健司郎:指揮者として会社員として

2018/08/29

  • 坂入 健司郎(さかいり けんしろう)

    指揮者・平23経

指揮者になりたいという漠然とした夢を抱いたのは6歳のとき。隔週で発売されるCD付録つきのクラシック音楽雑誌を親にねだって買ってもらい、同じ曲でも指揮者の違いでこれほど演奏が変わるものかと衝撃を受けたのがきっかけだった。中学受験を経て普通部に入ってから、その漠然とした夢は一気に現実になっていく。普通部1年生のとき、多方面で活躍する卒業生を招いて授業を行う「目路はるか教室」で講師として来られた藤崎凡氏から指揮の手ほどきを受け、夏休みの研究(労作展)では3年間をかけて好きな作曲家と指揮者を研究し、この中でインタビューさせて頂いた小林研一郎氏から指揮を学ぶことができた。

その後、音楽学校を受験することも考えたが、高校の恩師から「音楽家を目指すならば、音楽だけでなく広い視野で知見を深めること」とのアドバイスを受け大学進学を決意。大学時代は経済学部で学ぶ傍ら、文学部で哲学、法学部では人文科学研究会を履修する、かけがえのない4年間になった。また、慶應義塾出身の音楽家たちとの親密な関わりもかけがえのないもので、フルート奏者・小山裕幾氏との共演、指揮者・藤岡幸夫氏のアシスタントを務めた経験、そしてピアニスト・舘野泉氏と9曲もの協奏曲を共演したことは私の音楽人生の中で最も深い音楽体験になっている。

卒業後はぴあ株式会社に勤め、イベントを企画する立場、ファンの立場、アーティストの立場を俯瞰して、いかにイベントが互いに良いものになるかを考えた。その後、スポーツ庁へ出向。スポーツ競技をいかに普及させ、ファンを獲得し、様々な企業とパートナーシップを築けるかを考えている。音楽と仕事の「二刀流」は困難と思われがちだが、仕事においてもエンタテインメントの発展に携われていることは、自分にとって大切な「両輪」だ。

現在、2つのオーケストラを結成して活動している。1つは日本の気鋭プロ奏者が集まった川崎室内管弦楽団。もう1つは大学時代に仲間と結成した東京ユヴェントス・フィルハーモニーで、アマチュアながら音楽と楽器を愛する仲間たちと3カ月以上練習して鳴る響きは唯一無二のものがある。今年で創立10周年、9月16日にはミューザ川崎にて記念演奏会としてマーラーの最大傑作、〈千人の交響曲〉に挑戦する。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事