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【塾員クロスロード】
佐宗洋彦:アスリートを知り己を知り

2018/06/26

  • 佐宗 洋彦(さそう ひろひこ)

    株式会社オレンジフローラル代表取締役・平16総

スポーツに特化したインバウンド事業、スポーツイベントコンサルティング事業、観光オーガニック農園を主たる業務とする会社を経営しています。直近の業務は日本スケート連盟よりフィギュアスケート総務の依頼を受け平昌五輪の代表チームに帯同しました。

1日24時間では足りない状況下の長丁場で、己の気力、体力の限界、現状を知り的確な判断ができる健康状態を維持することも重要な仕事の1つです。平昌入りと同時に裏方としての戦いのキックオフ、まずはゼロからの選手村の環境整備に始まります。五輪は選手にとって重要かつ思い入れのある試合のため、重圧は計り知れません。現場で刻々と変わる選手のコンディションや取り巻く状況変化に選手が翻弄されないよう「アスリートの心」に「己の心」を疑似同化させ、選手が自身の実力を十分に発揮できるように細心かつきめ細かいサポートを行ってきました。試合以外で選手がかかわる事象、雑念の排除も私の仕事です。

一例ですが、試合の重要な要素である音楽について、選手が大会運営側に渡した音源で求めていた音質が出ないアクシデントがありました。万一に備えて代わりの音源データを常に携帯していたので、交渉により練習枠以外で音を再確認できました。総務に話せば何とかなると関係者や選手が錯覚をするほどの信頼を目指しつつ、選手に寄り添い安心感、平常心に繋げます。順位確定後は氷上式典、各種取材、メダル授与式など選手は分刻みの動きになります。試合を控えている選手に雑念を生じさせないよう、事前に私が関係各所と試合終了後のシナリオを共有しておきます。諸事情で取材時間を調整するため、組織委員会の各部署を繋ぐ役割を担いました。

福澤先生の言葉に「時と場所を考えて、行動を規制するものは、その人の明晰な判断力である。行動力ばかり活発で、判断力の欠けた人間は、いわば蒸気にエンジンがなく、船に舵がないようなものだ」とあります。各所の都合や取り巻く環境の流れに負け、判断するのではなく選手の心を知り、己を知り、全体状況を把握した上で最善な道を選択する。それは日本チームが総務へ求めた仕事と感受し、現場での航海士のような役割と理解し、業務を通じて微力ながら選手の活躍に貢献でき、選手の本番の演技に感動を覚えました。


※所属・職名等は当時のものです。

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