三田評論ONLINE

【塾員クロスロード】
室瀬祐:漆の仕事

2017/07/01

  • 室瀬 祐(むろせ たすく)

    漆芸作家・平20環

漆の仕事をしています。というとよく「ああ、職人さんなんですね」と言われます。確かにそういう側面もありますが、自分の仕事を職人の一言で済ませるのはなかなか難しいものです。

例えば、この文章を書いているのは、講演会とワークショップの仕事でバルセロナに向かう機内であったりします。いわゆる職人的な仕事としては、目白漆芸文化財研究所という工房で作品制作に携わっているのがそれにあたります。しかし制作だけをしているのかといえばそうでもなく、文化財の修復、美術館や博物館関係の仕事、漆芸教室や大学の講師、事務仕事でパソコンと向き合う1日もあります。

また勤務時間外では、一作家として自分の作品を作っていて、どちらかといえばこれが本業にしたい仕事です。このように日々色々な仕事に追われているので「職人さんですね」と言われると少々違和感があるのですが、なかなか説明が難しいので「そんな感じですね」などといい加減な答えをしている現状です。

そんな私が、今考えていること。それは慶應出身の漆芸作家仲間を増やせないか、ということです。漆芸作家と聞くと、手先が器用で、経済や社会から少し外れた人たちの仕事、というイメージを持たれるかもしれません。確かに手先の器用さは必要ですが今の漆芸界にはそれに加えて経済感覚や社会性、国際感覚に優れた人が求められているように思います。私たちの母校にはそんな人材が沢山いるように思うのです。

もう1つ、漆芸作家に求められる能力が発想力です。漆というと古いもののイメージが強いですが、それは一側面で、実際には継承したものをどう現代に生かすのか、という能力がとても大事です。私の学部同窓生の中には見事な発想力で新技術やサービスを生み出している人が沢山います。多くの業界でそうであるように、漆芸の世界でもこういった人材が求められていると思います。

そんな仲間が増えたら漆芸の世界はもっと面白くなる、と思っています。入り口が狭いのは事実ですが、私も業界内部からその入り口をこじ開けてみますので、就活を控えた学生や転職を考えている社会人の皆さんは、是非その検討リストに「漆芸」を入れてみてください。

何人か集まったら「漆芸三田会」でも作ってみようと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事