三田評論ONLINE

【塾員クロスロード】
薗田徹:塾に源 楽器職人の道

2017/06/01

  • 薗田 徹(そのだ とおる)

    バグパイプ工房そのだ(DudelsackbauT. Sonoda)代表・平1商

ドイツでバグパイプ製作工房を開いて10年目を迎えました。商学部卒業後、製薬会社に勤めておりましたが、ドイツ駐在時に会社が合併したのを機にこの地に残り、バグパイプ製作職人への道を歩み始めました。おかげさまで今では20カ国以上にお客様がおられます。

あまり知られていませんが、バグパイプは欧州・西アジアに200種類以上、その歴史は2000年とも言われ、音色や見た目も極めて繊細なものから野性的なものまで様々です。私は地元ドイツや隣国チェコの民族楽器と古楽器系を中心に、十数種のバグパイプを作っています。

楽器製作はそれまでの学歴・職歴と無縁の分野に見えますが、実は義塾での経験が背景にあり、また役立っています。日吉で履修した音楽学では、徳永隆男先生のご指導の下、ゼミ形式で中世~バロック時代の文献を講読しましたが、これは歴史的資料を読んで古楽器を復元する際に大きな助けとなりました。残念ながら先生は数年前にお亡くなりになられましたが、その2週間ほど前にご入院先で先生にお会いし、自作のバグパイプの音を聴いて頂く機会に恵まれました。また、在学中所属していた慶應バロックアンサンブルには、高い演奏技術や深い音楽知識を持つ先輩・同期・後輩諸氏が数多く、彼らに学んだこと、受けた影響の大きさは計り知れません。三田でしばしばサークルの仲間と美学の講義にもぐりこんだのも、良い想い出です。スコットランドのバグパイプ演奏も在学中に始めました。当時の塾内では、他にバグパイプを演奏する人に出会いませんでしたが、ちょうど早大にバグパイプのサークルが出来、早慶のよしみで勧誘を頂いて高田馬場で練習、早稲田祭でも演奏しました。これも塾が取り結んだ縁と言えましょう。これらのことが全て現在の仕事に繫がっています。

バグパイプは多くの地域で一旦伝統が廃れましたが、近年各国で復興が始まりました。1台で複数の音を奏でて不思議なハーモニーを生み出す魅力が見直されつつあり、今では民族音楽から室内楽、ロックに至るまで、様々な場で活躍する楽器です。復興後の歴史が浅いこともあって、バグパイプの製作は自由度が高くまだまだフロンティアに満ちた世界。今後も新たな音との出会いを求めて精進と挑戦を続けたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事