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【塾員クロスロード】
市毛亮:人と自然を繫ぐカスタネット

2017/04/01

  • 市毛 亮(いちげ まこと)

    一般財団法人みなかみ農村公園公社、赤谷プロジェクト地域協議会・平19商

私が暮らしているのは、群馬県北部・利根川の源流域に位置するみなかみ町です。

商学部を卒業後、化学メーカーに就職しましたが、入社から6年半が経ったところで退職を決意。その後、1年半ほど県内の自治体で、農業や観光業を経験し、故郷のみなかみ町に戻ったのは今から2年前です。

今、私が取組んでいる活動の1つに「赤谷プロジェクト」(以下、赤谷P)があります。赤谷Pは、みなかみ町北部の約1万haの国有林「赤谷の森」を舞台に、地域住民で組織する「地域協議会」、「(公財)日本自然保護協会」、「林野庁関東森林管理局」の3者が協働して、「生物多様性の復元」と「持続可能な地域づくり」を進める取組みです。赤谷Pの活動は多岐にわたりますが、今回、「持続可能な地域づくり」の取組みの中で私が普及に努める、森とともに復活したカスタネットを紹介します。

みなかみ町には、教育用カスタネット発祥の工房があります。あの赤と青のカスタネットです。1955年頃、スペインの民族楽器をもとに、子供たちがリズムを学ぶのに使いやすいようにと開発されました。最盛期には、年間200万個生産しており、日本の教育現場のカスタネットをほぼすべてまかなっていました。2000年代に入ると、地元の木材が手に入らなくなり、北米のブナ材で生産を続けていましたが、子供の減少とともに採算が合わなくなり、2013年に生産を中止しています。

ちょうどその頃、赤谷Pでは、森を再生する過程でうまれる間伐材などの利用を検討していました。森からの恵みを持続的に利用することで生物多様性の復元につながり、地域の産業が豊かになる、地域資源を循環させる仕組み作りを検討していました。その趣旨を職人の方に賛同していただき、地域の木材を利用したカスタネットが復活しました。自然と上手に付き合う中でのカスタネット作りは、以前ほど数も作れず、経済的な面などで課題もありますが、このカスタネットを通じて、多くの方が人と自然との関係を考えるきっかけを作りたいと思っています。

私たちは、自然の恩恵を受けてこの地球上に暮らしています。私は、自然との関わりを意識した暮らしをしていきたいと思い帰郷しました。これからも自然豊かなよりよい地域を後世に引き継ぐため、活動を続けていきたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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